Mule Runtime 高可用性 (HA) クラスターの概要

CloudHub でのクラスタリングに相当するものの場合、アプリケーションを拡大し、高可用性を提供するためにワーカーを共有または二重化する方法の詳細は、​CloudHub 高可用性​を参照してください。

Mule Enterprise Edition は拡張可能なクラスタリングをサポートし、アプリケーションの高可用性 (HA) を実現しています。

クラスターとは、ユニットとして機能する Mule Runtime Engine のセットです。言い換えると、クラスターとは複数のノード (Mule Runtime Engine) で構成された仮想サーバーです。クラスター内のノードは分散された共有メモリグリッドを通じて通信を行い、オブジェクトストアと VM キューのデータを共有します。つまり、データがさまざまなマシンのメモリ間で複製されます。

この複製された状態の共有メモリグリッドは、次のものに適用されます。

  • 永続的または非永続的なオブジェクトストア

  • 永続的または一時的な VM キュー

  • Mule Runtime LockFactory

クラスター
この機能の価格については、カスタマーサービス担当者にお問い合わせください。

クラスタリングの利点

デフォルトでは、Mule Runtime Engine のクラスタリングにより、システムの高可用性を実現できます。障害や計画的なダウンタイムが原因で Mule Runtime Engine ノードが使用不可になった場合、クラスター内の別のノードがワークロードを引き継ぎ、VM キューからのメッセージの処理やその他の要求のサービスを続行できます。次の図は、2 ノードのクラスターによる受信メッセージの処理を示しています。処理負荷がノード間で分散されているのがわかります。ノード 1 がメッセージ 1 を処理するのと同時に、ノード 2 はメッセージ 2 を処理します。

FailoverNoFail

一方のノードで障害が発生した場合、もう一方の障害の発生していないノードが障害の発生しているノードの作業を引き継ぎます。外部ロードバランサーが障害の発生しているノードのトラフィックをアクティブなノードにリダイレクトするか、VM キューを通じてアクティブなノードがインフライトメッセージの処理を続行できるようにします。次の図で示しているように、ノード 2 で障害が発生した場合、ノード 1 はメッセージ 1 とメッセージ 2 の両方を処理します。

FailoverNode2Fail

Mule Runtime Engine のクラスターではすべてのノードが同時に「アクティブ-アクティブ」になりメッセージを処理できるため、クラスターによってパフォーマンスおよび拡張性も向上します。単一ノードのインスタンスと比較すると、クラスターのほうがサポートできるユーザーも多く、ワークロードを複数のノードで共有するかノードをクラスターに追加することで、アプリケーションのパフォーマンスも向上できます。アプリケーションによっては水平方向にスケーリングまたはクラスタリングを行ってもパフォーマンスが向上しないものもあります。パフォーマンスは追加ノードと共有される作業の性質によって異なります。オブジェクトストアを多用するアプリケーションの中には、共有メモリグリッド内のデータの複製やアクセスの調整に必要な作業のために、パフォーマンスが低下するものもあります。

次の図では、ワークロードの共有をより詳しく示しています。両方のノードが受注処理に関するメッセージを処理します。ただし、一方のノードの負荷が大きい場合、その処理の 1 つ以上のステップの処理をもう一方のノードに移動できます。ここでは、割引処理ステップの処理がノード 1 に移動され、受注ステップの処理がノード 2 に移動されています。

クラスター図

自動フェールオーバーによる高可用性、パフォーマンスの向上、拡張性の向上以外に、Mule Runtime Engine のクラスタリングには次のような利点があります。

  • ファイル、データベース、FTP ソースなどのリソースへのアクセスの自動調整。
    Mule Runtime Engine クラスターは、どのノード (Mule Runtime Engine) がデータソースからの通信を処理するかを自動的に管理します。

  • クラスター内の処理の自動負荷分散。
    フローを一連のステップに分割してこれらのステップを VM などのコネクタと接続すると、各ステップはキューに入り、クラスターが有効になります。続いて、Mule Runtime Engine のクラスターが任意のノードで各ステップを処理し、ノード間で負荷がより効率的に分散されます。

  • アラートの生成。
    ノードがダウンした場合やノードが復活したときに表示されるアラートをセットアップできます。

クラスターのすべての Mule Runtime Engine はアクティブにメッセージを処理します。各 Mule ノードは垂直方向にも拡張可能です。単一のノードでも複数のコアや追加メモリを活用することで拡張できます。Mule は複数のコアを使用する場合であっても、クラスターでは単一のノードとして動作します。

クラスターによって解決される同時実行の問題

クラスターとしてバインドされていない複数のサーバーで構成されたサーバーグループがある場合、次のような問題が存在する可能性があります。サーバーをクラスターとしてグループ化すれば、こうした問題に頭を悩ませることはありません。

  • ファイルベースのコネクタ。
    すべての Mule インスタンスは同じ Mule ファイルフォルダーに同時にアクセスするため、ファイル処理が重複することもあれば、ファイルが Mule アプリケーションによって削除または変更された場合には障害が発生する可能性もあります。

  • マルチキャストコネクタ。
    すべての Mule インスタンスは同じ TCP 要求を受けてから重複メッセージを処理します。

  • JMS トピック。
    すべての Mule インスタンスは同じ JMS トピックに接続するため、非クラスタリング Mule インスタンスを水平方向に拡張した場合、メッセージの処理が反復される場合もあります。JMS ブローカーからは、インスタンスは別々のサブスクライバーのように見え、そのすべてが各メッセージのコピーを取得します。この動作が必要となるのはまれです。このシナリオを避けるために、「共有サブスクライバー」設定を使用できます。この設定によって、JMS ブローカーに、すべてのインスタンスを結合サブスクライバーとして扱い、それぞれ別個のメッセージを与えるように指示できます。

  • JMS request-reply (要求-返信)/request-response (要求-応答)。
    すべての Mule インスタンスは同じ応答キューでメッセージをリスンします。これは、Mule インスタンスが送信した要求に相関していない応答を受け取る可能性があり、結果として不正な応答になったりフローがタイムアウトにより失敗したりする場合があることを意味します。

  • 冪等性再配信ポリシーと冪等性メッセージ検証。
    水平スケーリングで同じ要求を異なる Mule インスタンスが受信し、再配信ポリシーまたは Idempotency Message Validator で使用されるオブジェクトストアコンテンツがローカライズされている場合、冪等性が正しく機能しません。このような冪等性機能で使用されるオブジェクトストア値を共有するクラスターの場合、すべてのノードがすでに処理済みの識別子のリストを共有しているため、メッセージの重複は起こり得ません。

  • Salesforce ストリーミング API。
    同じアプリケーションの複数のインスタンスをデプロイした場合、API は単一コンシューマーしかサポートしていないため、失敗します。接続されているインスタンスが停止またはクラッシュした場合のフェールオーバーのサポートはありません。

前提条件

  • クラスターには少なくとも 2 個の Mule Runtime Engine インスタンスが必要であり、マシン上で障害が 1 か所に集中することを防ぐため、それぞれを異なるマシンで実行する必要があります。

  • Mule 高可用性 (HA) では、クラスターのノード間の同期を維持するために、サーバー間に信頼性の高いネットワーク接続が必要です。

  • Mule クラスター用に設定されたポートを開いたままにします。

    • Runtime Manager を使用してクラスターを設定し、デフォルトポートを使用する場合、TCP ポート ​5701​、​5702​、および ​5703​ を開いたままにします。

    • 代わりにカスタムポートを設定する場合、カスタムポートを開いたままにします。

    • ポート ​5701​ を介してノード間の通信が開いていることを確認します。

      ネットワーク内のファイアウォールルールを検証して、ノード間の双方向通信が有効になっていることを確認します。

クラスターでマルチキャストを有効にする場合、前述の前提条件に加えて次の要件も適用されます。

  • UDP ポート ​54327​ を開いたままにします。

  • マルチキャスト IP アドレス ​224.2.2.3​ を有効にします。

高可用性

高可用性とは、そこで実行されるアプリケーションのダウンタイムを防止するようにコンピューターシステムをデザインする方法です。一部のシステムでは 1 台のサーバーでダウンタイムが発生しても、アプリケーションはアプリケーションのエンドユーザーに対するサービスの提供を中断することなく他のサーバーでスムーズに実行し続けることができるように、複数のサーバーを使用しています。

クラスターのデザインと管理

Anypoint Runtime Manager は、Mule インスタンスの顧客がホストするクラスターをセットアップしてアプリケーションをデプロイしてクラスターで実行できるようにします。クラスターおよび個別のノードの状況に関する情報を監視することもできます。クラスタリングを行うと、複数のサーバーを 1 台として容易に管理できます。

クラスター管理についての詳細は、Runtime Manager の​「Managing Servers (サーバーの管理)」​を参照してください。

Anypoint Runtime Fabric では、デプロイ時に Mule Runtime レプリカをクラスターモードでプロビジョニングするオプションがあります。

Mule クラスターは、2 つ以上の Mule Runtime Engine、またはノードで構成され、グループにまとめられて単一ユニットとして扱われます。初期設定の場合、クラスターの拡張は 8 個の Mule Runtime Engine までにすることをお勧めします。

Anypoint Runtime Manager を使用すれば、クラスター内のすべての Mule Runtime Engine を単一の Mule Runtime Engine であるかのようにデプロイ、監視、および停止することができます。

注意: CloudHub ではプロビジョンされたワーカーにこのクラスタリング設定を使用しませんが、同等の環境を提供する他の高可用性機能があります。たとえば、Anypoint Object Store (OSv2) を介した外部化された状態管理や、永続的なキュー配置機能 (VM キューをワーカーの外部に移すことで、共有可能にして再プロビジョニングの際も存続するようにする) などです。

次に示すように、クラスター内のすべてのノードはメモリを共有します。

topology_4-cluster
動作のパフォーマンスを確保するために、Mule は active-active (アクティブ-アクティブ) モデルを使用して Mule Runtime Engine をクラスタリングします。active-passive (アクティブ-パッシブ) モデルに対するこのモデルのメリットは、アプリケーションがすべてのノードで実行され、メッセージ処理をクラスター内の他のノードと分け合うことで、処理を効率化できることです。

プライマリノードの違い

active-active (アクティブ-アクティブ) モデルでは、すべてのノードが処理を実行できます。ただし、いずれか 1 つのノードがプライマリノードとして機能し、スケジューラーやその他の「プライマリノードのみ」とマークされているイベントソースを実行します。このモデルでは、クラスター内の 1 つのプライマリポーリングノードでソースが実行され、クラスター内の他のノードはそれらのソースからのメッセージを読めないように設定できます。

この機能は、ソース種別に応じて異なります。

  • スケジューラーソース: プライマリポーリングノードでのみ実行されます。

  • 他のソース: primaryNodeOnly​ 属性で定義されます。そのコネクタの ​primaryNodeOnly​ のデフォルト値を調べるには、各コネクタのドキュメントを確認してください。

    JMS の設定例:
    <flow name="jmsListener">
        <jms:listener config-ref="config" destination="listen-queue" primaryNodeOnly="true"/>
        <logger message="#[payload]"/>
    </flow>

この例は、逐次/一度に 1 つのメッセージの処理が必要な状況でアプリケーションが JMS からメッセージを受信するユースケースのものと考えられます。JMS Connector の On New Message ソースのデフォルト設定では、デフォルトで [Primary Node Only (プライマリノードのみ)] が選択されていますが、ほとんどのコネクタソースでは [Primary Node Only (プライマリノードのみ)] は選択されていません。デフォルト設定の決定はコネクタの開発者が行います。すべてのノードで処理を実行する必要があるユースケースでは、開発者はすべてのクラスターノードでソースが有効になるように primaryNodeOnly 値の選択を解除します。

Queues

コードの実行とフロー参照によるフローのコールは、イベントの実行が開始されたのと同じノードで行われます。ただし、クラスター化された Mule Runtime で実行を共有または分散するために、VM キューをセットアップして VM キューに明示的にパブリッシュすることでノード間で負荷を分散できます。永続的な VM キューと一時的な VM キューのいずれでもクラスターの共有メモリグリッドが使用され、VM キューを介したあらゆる移行は別のアクティブなノードにジャンプする可能性があります。そのため、アプリケーションフロー全体に VM キューのパブリッシャー/リスナーによってリンクされた子フローのシーケンスが含まれる場合、クラスターは連続する各子フローをその時点で使用可能な任意の Mule Runtime Engine に割り当てることができます。下で示しているように、クラスターはアプリケーションフローの VM キューを通過するときに複数のノードで単一メッセージを処理することもできます。

load_balancing

高信頼性アプリケーション

高信頼性アプリケーションと言えるには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. メッセージの損失の許容がゼロであること

  2. インテグレーションエンジン (Mule) が信頼できること

  3. 個別の接続の信頼性が高いこと

トランザクション性として知られる機能はアプリケーションイベントシーケンスを追跡し、それぞれのメッセージ処理ステップが正常に完了するようにします。そのため、失われたり不正に処理されたりするメッセージはありません。何らかの理由でステップが失敗した場合、トランザクションメカニズムが以前の処理イベントをすべてロールバックし、メッセージ処理シーケンスを再開します。

JMS、VM、JDBC などのコネクタにより、ビルトイントランザクションサポートが提供されるため、メッセージが確実に処理されるようになります。たとえば、トランザクションがコミットされた後でのみメッセージを JMS サーバーから削除するようにインバウンド JMS 接続エンドポイントでトランザクションを設定できます。この方法により、処理フロー中にエラーが発生した場合、元のメッセージは再処理できる状態で保持されます。

トランザクションをサポートする異種コネクタ間でメッセージを移動するには、XA トランザクションを使用する必要があります。これにより、Mule Runtime Engine はすべての異種コネクタの関連付けられたトランザクションを単一ユニットとしてコミットするようになります。

トランザクションは、コネクタがトランザクションをサポートしないシステムでのインタラクションや操作を対象とすることはできません。そのため、関連する操作の中にトランザクションに含めることができないものがある場合には、 Sagas​ などの代替パターンを代わりに使用します。

コネクタのクラスターサポート

すべての Mule Connector がクラスター内でサポートされます。コネクタごとにインバウンドトラフィックにアクセスする方法が異なるため、このサポートの詳細は異なります。一般に、アウトバウンドトラフィックはクラスター内外で同じように機能します。Mule Runtime は 3 つの基本的な種別のコネクタをサポートしています。

ソケットベースのコネクタ

ソケットベースのコネクタは Mule が所有するネットワークソケットに送信された入力を読み取ります。例としては TCP、UDP、HTTP[S] などがあります。

ソケットベースのコネクタは以下に示しているようにクラスター内でサポートされます。

  • クラスタリングされた各 Mule Runtime は異なるネットワークノードで実行されるため、各インスタンスはそのノードに送信されたソケットベースのトラフィックのみを受信します。受信したソケットベースのトラフィックは、クラスタリングされたインスタンス間で分散するために​[Clustering and Load Balancing]​を実行する必要があります。

  • ソケットベースのコネクタへの出力は特定のホスト/ポートの組み合わせに書き込まれます。ホスト/ポートの組み合わせが外部ホストの場合、特に考慮事項はありません。ローカルホストのポートの場合、クラスター間でより効率的にトラフィックを分散するために、代わりにロードバランサーでそのポートを使用することを検討してください。

リスナーベースのコネクタ

リスナーベースのコネクタは同時の複数アクセサーを十分にサポートするプロトコルを使用してデータを読み取ります。例としては、JMS や VM があります。

リスナーベースのコネクタは以下に示しているようにクラスター内でサポートされます。

  • リスナーベースのコネクタは複数のリーダーおよびライターを完全にサポートしています。入力にも出力にも特に考慮事項はありません。

  • クラスターでは、VM Connector キュー (永続的と一時的の両方) が共有のクラスター全体のリソースである点に注意してください。クラスターは VM Connector キューへのアクセスを自動的に同期します。そのため、任意のクラスターノードで VM キューに書き込まれたメッセージを処理できます。これにより、VM はクラスターノード間でワークを共有するのに最適です。

リソースベースのコネクタ

リソースベースのコネクタは複数の同時アクセサーは使用可能だがリソースの使用をネイティブに調整しないリソースからデータを読み取ります。リソースベースのコネクタの例としては、ファイル、FTP、SFTP、メール、JDBC などがあります。

リソースベースのコネクタは以下に示しているようにクラスター内でサポートされます。

  • Mule HA クラスタリングは自動的にクラスター内のノードのみについて各リソースへのアクセスを調整するため、クラスタリングされたインスタンスのうち 1 つだけが一度に各リソースにアクセスするようになります。そのため、通常はリソースベースのコネクタから読み取られたメッセージをすぐに VM キューに書き込むことをお勧めします。これにより、他のクラスターノードがメッセージの処理に参加できます。

    クラスター内のノードとして同じリソースにアクセスする他のアプリケーション (クラスター外の Mule アプリケーションまたは Mule 以外のアプリケーション) を実行する場合は、これらのリソースをロックするロジックを実装する必要があります。

    たとえば、複数のプログラムがファイルの読み取り、変更、そして削除を行うことで、同じ共有ディレクトリのファイルを処理しているとします。これらのプログラムは明示的なアプリケーションレベルのロッキング戦略を使用して、同じファイルが複数回処理されないようにする必要があります。

  • リソースベースのクラスタリングされたコネクタへの書き込みには特に考慮事項はありません。

    • ファイルベースのコネクタ (ファイル、FTP、SFTP) に書き込むときに、Mule は一意のファイル名を生成します。

    • JDBC に書き込むときに、Mule は一意のキーを生成できます。

    • メールの作成は、実質的にはリソースベースではなくリスナーベースです。

クラスタリングと信頼性の高いアプリケーション

高可用性アプリケーションは、メッセージの損失の許容がゼロである必要があります。つまり、基礎となる Mule とその個別の接続の信頼性が高い必要があります。クラスターで十分に信頼できるアプリケーションをビルドするためのツールは​「信頼性パターン」​で見つかります。

アプリケーションで非トランザクションコネクタを使用している場合、信頼性パターンに従ってください。これらのパターンにより、メッセージが受け入れられて正常に処理されるか、「失敗」応答を生成してクライアントが再試行できるようになります。

アプリケーションで JMS、VM、JDBC などのトランザクションコネクタを使用している場合は、トランザクションを使用します。トランザクションコネクタに対する Mule のビルトインサポートにより、こうしたコネクタを使用するアプリケーションで信頼性の高いメッセージングを実現できます。

これらのアクションは、クラスタリングされていないアプリケーションにも適用できます。

クラスタリングとネットワーキング

単一のデータセンターのクラスタリング

クラスターノード間で信頼性のある接続を確立するには、クラスターのすべてのノードを同じ LAN に配置する必要があります。VPN を通じて接続された異なるデータセンターなど、地理的に離れた場所にノードが含まれるクラスターを実装することも可能ですが、お勧めはしません。

ネットワークの中断や、メッセージの重複などの意図しない結果を招く可能性を下げるためには、すべてのクラスターノードを同じ LAN に配置するのが最もお勧めです。

分散型データセンターのクラスタリング

WAN ネットワークを使用してクラスターノードをリンクすると、外部ルーターやファイアウォールなど、障害が発生する可能性のあるポイントが多くなり、クラスターノード間で適切に同期が行われないおそれがあります。これはパフォーマンスに影響を及ぼすだけでなく、アプリケーションにおける副作用の可能性を考慮に入れる必要も生じます。たとえば、2 つのクラスターノードがネットワークリンクの障害による切断後に再接続した場合、次回の同期プロセスでメッセージが 2 回処理される可能性があり、重複が発生して、アプリケーションロジックで処理する必要が生じます。また、オブジェクトストアを使用しているアプリケーションが、ノード間の通信機能の障害のために整合性のない状態になる可能性もあります。他に発生する可能性のある問題は、複数のノードが「プライマリ」になることです。これは、別々のノードが自身がクラスター内の唯一のノードであると認識することで発生します。

異なるデータセンターに配置されたクラスターのノードを使用でき、必ずしも同じ LAN に配置されている必要はありませんが、いくつか制限事項がある点に注意してください。

この「スプリットブレーン」処理動作を防ぐには、Quorum プロトコルを有効にする必要があります。このプロトコルは、ノードの 1 つのセットがデータの処理を続行し、他のセットが再接続されるまで共有データに関して何も実行しないようにするために使用されます。基本的に、切断が発生した場合、ノードが最も多い方のみが稼働し続けます。たとえば、2 つのデータセンターがあり、一方は 3 つのノードがあり、もう一方には 2 つのノードがあるとします。2 つのノードがあるデータセンターで接続の問題が発生した場合、ノードが 3 つのデータセンターが機能し続け、もう一方のデータセンターは停止します。ノードが 3 つのデータセンターがオフラインになった場合、どちらのノードも機能しなくなります。こうした機能停止を防ぐには、少なくとも 3 つの同じ数のノードを持つデータセンターでクラスターを作成する必要があります。2 つのデータセンターがクラッシュすることは考えにくいため、1 つのデータセンターがオフラインになったり、ネットワーク障害によって他のデータセンターから分離されたりしても、クラスターは常に機能し続けることになります。

機能するのに十分なノードがクラスターパーティションにない場合、外部システムコールに対しては引き続き反応しますが、オブジェクトストアを経由したすべての操作は失敗し、データ生成できなくなります。

制限事項

  • Quorum はオブジェクトストア関連の操作でのみサポートされます。

  • 分散ロッキングはサポートされず、以下に影響を及ぼします。

    • ファイルの並列に関するファイル/FTP Connector ポーリング

    • 冪等性再配信ポリシーコンポーネント

    • 冪等性メッセージ検索条件コンポーネント

  • メモリ内メッセージングはサポートされず、以下に影響を及ぼします。

    • VM Connector

  • Quorum 機能は手動でのみ設定できます。

  • 一括処理ジョブでは高可用性機能が使用されません。

クラスタリングと負荷分散

TCP 要求 (この場合、TCP には SSL/TLS、UDP、Multicast、HTTP、HTTPS が含まれる) に対応するために Mule クラスターが使用される場合、クラスタリングされたインスタンス間で要求を分散するためにある程度の負荷分散が必要になります。Anypoint Runtime Fabric には基盤となる Docker Kubernetes (K8s) インフラストラクチャの一部としてロードバランサー機能が含まれていますが、お客様がホストし、手動でプロビジョニングされたクラスターでは、サードパーティのロードバランサーを提供するか、クライアント側で負荷分散とフェールオーバーを実行する必要があります。 さまざまなソフトウェアのロードバランサーが使用できますが、そのうちの 2 つを紹介します。

  • オープンソースの HTTP サーバーおよびリバースプロキシである Nginx。HTTP(S) の負荷分散に NGINX の ​HttpUpstreamModule​ を使用できます。

  • Apache Web サーバー。これは HTTP(S) ロードバランサーとしても使用できます。

TCP と HTTP または HTTPS トラフィックの両方をルーティングできるハードウェアのロードバランサーも多数あります。

高パフォーマンス用のクラスタリング

このセクションは、お客様がホストし、手動でプロビジョニングされたクラスターデプロイメントにのみ適用されます。
その他のデプロイメントオプションについての詳細は、​「デプロイメント戦略」​を参照してください。

(信頼性ではなく) 高パフォーマンスが最大目標の場合は、パフォーマンスプロファイルを使用してパフォーマンスが最大になるように Mule クラスターまたは各アプリケーションを設定できます。クラスター内で特定のアプリケーションのパフォーマンスプロファイルを実装することで、デプロイメントの拡張性を最大にすると同時に、パフォーマンスおよび信頼性の要件が異なるアプリケーションを同じクラスターにデプロイすることができます。コンテナレベルで設定したパフォーマンスプロファイルは、そのコンテナ内のすべてのアプリケーションに適用されます。アプリケーションレベルの設定はコンテナレベルの設定より優先されます。

パフォーマンスプロファイルの設定に関する考慮事項

パフォーマンスプロファイルの設定には 2 つの効果があります。

  • 分散キューが無効になり、代わりにローカルキューを使用して共有データグリッドにおけるデータの逐次化/非逐次化および分散を防止します。

  • バックアップなしでオブジェクトストアを実装し、複製を防止します。

    1 つのノードがダウンしたら、そのノードに関連付けられているデータが失われます。

パフォーマンスプロファイルを設定しても、メモリ共有には影響しません。クラスターモードでは、オブジェクトストアはノード間で常に分散し、共有されます。

パフォーマンスプロファイルの設定

コンテナ​レベルでパフォーマンスプロファイルを設定するには、次のコマンドを ​mule-cluster.properties​、システムプロパティ (コマンドラインから)、または ​wrapper.conf​ に追加します。

mule.cluster.storeprofile=performance

個別のアプリケーション​レベルでパフォーマンスプロファイルを設定するには、以下で示しているように、設定ラッパー内にプロファイルを追加します。

  • パフォーマンスストアプロファイル

    <mule>
       <configuration>
          <cluster:cluster-config>
             <cluster:performance-store-profile/>
          </cluster:cluster-config>
       </configuration>
    </mule>

アプリケーションレベルの設定はコンテナレベルの設定より優先されます。高パフォーマンス用にコンテナを設定するが、そのコンテナ内の 1 つ以上の個別のアプリケーションでは信頼性を優先するには、こうしたアプリケーションに次のコードを含めます。

  • 信頼性ストアプロファイル

    <mule>
        <configuration>
            <cluster:cluster-config>
                <cluster:reliable-store-profile/>
            </cluster:cluster-config>
        </configuration>
    </mule>

負荷分散をサポートしないエンドポイントで負荷が大きい場合、パフォーマンスプロファイルを適用するとパフォーマンスが低下する場合もあります。非同期処理戦略、ロードバランサーがない JMS トピック、マルチキャスト、または HTTP Connector でファイルベースのコネクタを使用している場合、大量のメッセージが単一ノードに入るとボトルネックが発生する可能性があるため、こうしたアプリケーションのパフォーマンスプロファイルを無効にしたほうがパフォーマンスが向上する場合があります。

稼働状態を保つためにクラスターで必要なマシンの最小数を定義することもできます。この設定により、パフォーマンス全体での一貫性が改善されます。

クラスターノード間の通信の暗号化

mule.cluster.network.encryption.key​ プロパティを ​wrapper.conf​ ファイルでまたはシステムプロパティとして定義することで、クラスターノード間のトラフィックを暗号化できます。

暗号化キーを定義すると、定義したキーと AES 暗号化アルゴリズムを使用してクラスターノード間のすべての通信が暗号化されます。

FIPS モードでのクラスタリングの有効化

FIPS モードでのクラスタリングを有効化するには、次のタスクを完了します。

  • FIPS モードで Mule Runtime Engine を実行します。
    設定の手順は、​「FIPS コンプライアンスサポート」​を参照してください。

  • クラスターノード間の通信を暗号化します。
    mule.cluster.network.encryption.key​ プロパティを ​wrapper.conf​ ファイルで定義するか、システムプロパティとして定義します。

警告

  • 暗号化キーを定義しない場合、アプリケーションはデプロイに失敗し、​Cluster key must be defined in FIPS mode.​ というメッセージが表示されます。

  • クラスタリングされたすべてのノードで同じ暗号化キーを使用しない場合、この機能は動作しません。

  • FIPS モードでクラスタリングされた環境を実行すると、ノード間のすべての通信が暗号化 (および復号化) されるため、パフォーマンスが低下します。

クラスタリングのベストプラクティス

クラスタリングに関しては多くの推奨事項があります。例を挙げます。

  • できるだけアプリケーションを一連のステップに整理し、各ステップがメッセージを 1 つのトランザクションストアから別のトランザクションストアに移動するようにします。

  • アプリケーションで非トランザクションコネクタからのメッセージを処理する場合、​信頼性パターン​を使用して VM や JMS ストアなどのトランザクションストアに移動します。

  • トランザクションを使用してトランザクションコネクタからのメッセージを処理します。これにより、エラーが発生した場合、メッセージが再処理されるようになります。

  • VM や JMS Connector で使用するような分散ストアを使用します。こうしたストアはクラスター全体に対して使用可能です。これは、ファイル、FTP、JDBC などのコネクタで使用する非分散ストアよりも優れています。こうしたストアは一度に単一のノードによって読み取られます。

  • VM Connector を使用して最適なパフォーマンスを得ます。クラスター全体が終了した後にデータを保存する必要があるアプリケーションに JMS Connector を使用します。

  • 高信頼性アプリケーションを作成するには信頼性パターンを実装します。